東京の西、花小金井駅の北口にあるカフェ「つの笛」。
ここで新谷さんのライヴがあるというので、観に行った。
昼の部、夜の部の2ステージ。僕は両方とも観た。

会場に入ると、そこはとても雰囲気のある素敵なカフェで、
その奥にマリンバがドーンと置かれていた。
ライヴは純粋な新谷さんのソロということではなく、
ファゴットとパーカッションが加わったトリオ編成。
※新谷さん以外のメンバーは、前田正志さん(ファゴット)、蛯名優美さん(パーカッション)。
このトリオは、
昨年の十和田市現代美術館で行われたライヴのメンバーでもあるそうだ。
しかも、三人とも同じ高校の同窓生だそうで、世代を越えた強力な必然性があるトリオである。
十和田ライヴは残念ながら観られなかったが、僕が行きたかったライヴでもあったので、
今日はその十和田と同じメンバーということでも、楽しみにしていた。

お客さん全員に配られたパンフレットを見てもらえればわかるように、ライヴは二部構成。
あいだにコーヒー・タイム(美味しいチーズケーキとコーヒーが付いていた!)が入るという、
何ともリラックスでき、かつ贅沢でもあり…なプログラムだ。
これで2,500円というのは、ちょっとあり得ないでしょう。
セット・リストはいつもの新谷さんで、オリジナルとカヴァーのメニューだ。
オリジナル曲は、例のごとく新曲をガンガン歌ってくれた。
モネの絵からインスパイアされたという「ブルック」。
小学生の入学時(だったかな)の写真がきっかけで生まれた、
カリンバで歌われた何とも可愛い名曲「新しい友だち」。
そして新谷さんの曲の中でも渋味が感じられる「とめようもない」。
僕が印象に残ったのはこの3曲だった。
カヴァーでは、パーカッションの蛯名さんがリクエストしたらしい「スカボローフェア」。
これがまたパーカスをフィーチャーしたアレンジでカッコよく、聴き応え抜群だった。
昨年5月のライヴでも演奏された「コーヒー・ルンバ」も最高だった。
さて、ファゴットという楽器だが、僕は名前しか知らなかった。
音も、おそらく初めて聴いたはずだ。
その初めて聴く生音は、何となく想像していた通り、実に優しい音だった。
マリンバとの共演については、他に比べるものが僕の中に存在しないので、
本当の意味で初体験だったわけだが、これが素敵で、とてもマッチしていたと思う。
僕は楽器同士の相性云々を専門的に語ることはできないのだけれど、
少なくとも新谷祥子の音楽にはバッチリだった…と、
僕を含めたあの場にいたお客さんは思ったはずだ。これだけは確信に近い。
その確信の理由は「冬の線路」だ。
この曲はふるさとをテーマにした切ないメロディとマリンバのフレーズが印象的で、
どちらかと言えば、歌われる切なさ…といった世界観にココロが動かされる名曲だと思うが、
ファゴットとのデュエットで演奏された「冬の線路」は違った。
チープな表現でしか表せないのが申し訳ないけれど、
晴れ間が見える…とか、春が感じられる…とか、新しい服に着替える…とか、
NEXT・次に行く…みたいな、前を向く…ような、歩き出す…みたいな、
何だかそんな雰囲気を感じることができて、素晴らしかった。
誤解しないで欲しいが、これは決してオリジナル・ヴァージョンに対して良かった…では無い。
まったく新しい「冬の線路」が目の前に現れたということで、素晴らしいと思ったのだ。
そのファゴット奏者の前田さんは、その人柄が音に出ているようなミュージシャンだった。
他のオリジナル曲も、この組み合わせで聴いてみたい。再びの共演を観てみたい。
もうひとり、パーカッションの蛯名さんがとても魅力的だった。
演奏する姿はカッコよく、時おり見せる笑顔がチャーミングで、
僕は一気にファンになってしまった。
思えば、このチャーミングかつカッコイイというのは、
僕が新谷さんを初めて観た時にも抱いた印象だ。
ライヴ後、蛯名さんとも少しお話をすることができた。
近いうちにタイコを担いで世界一周の旅に出るそうだが、
旅を終えたら、また新谷さんとの共演など、どこかで再会したいものだなぁ。
一緒に演奏してみたいなぁ…とも思ったけれど(笑)。
最近に無い、とても充実した土曜日…休日だった。
音楽は素晴らしい。
そして、素晴らしい音楽は、本当に素晴らしい。